
数あるサドルを試してきた中で、最終的にしっくりきたのが、スペシャライズドのSitero(シテロ)だった。
このサドルは、最初に座ったときから感覚が違った。とにかく“座りやすい”。一番簡単にポジションが決まりやすくて、変なクセをつけずに、自然に身体が馴染んでいく。懐が深くて、前乗りしても逃げ場があって、ストレスが一点に集中しない。長時間乗っていても、痛みや痺れの不安が少ない。どんな体勢になっても、許容してくれるような“包容力”がある。
他のサドルでは、位置や角度を細かく調整しても「なんか合わないな」と感じることが多かった。逆にSiteroは、乗り手のクセや体格をあまり選ばず、柔軟に受け止めてくれる印象がある。名器と呼ばれる理由が、実際に使ってみてよくわかった。
ただ、いくらいいサドルでも、“正しく座れていない”状態では意味がない。これがすごく大事なポイントだと思っている。
TTポジションは、前傾姿勢が深く、乗り慣れていないとすぐにフォームが崩れる。フォームが崩れれば、当然サドルのどこかに無理がかかって、痛みや違和感に繋がる。だから、「サドルが合わない」と感じている人の多くは、実は“フォーム”のほうに原因があることが多い。
自分も最初はそうだった。サドルのせいだと思って何度も買い替えたけれど、ポジションが整っていなかっただけだった。フィッティングを受けてフォームが安定してくると、それまで痛かったサドルでも不思議と乗れるようになる。逆に、良いサドルを使っていても、フォームが崩れていれば意味がない。
だからこそ、座ることにストレスや違和感を感じている人には、ポジションのコーチングを強くおすすめしたい。フィッティングだけではわからない、「どう乗ればいいか」「どう座ればいいか」という部分まで、一緒に確認できる。三次元でフォームを見ながら、自分の体の使い方を理解していく時間は、本当に価値がある。
今のポジションにモヤモヤを感じている人、自分のフォームに自信が持てない人は、まず“座る”という基本に立ち返ってみてほしい。
僕自身も、Siteroに出会って、乗り方そのものが変わった。快適に走れると、バイクがもっと楽しくなる。もっと遠くへ、もっと速く行きたくなる。そのきっかけが、たったひとつのサドルから始まることもある。