バイクのポジションを記録し、メンテナンスを重ね、最後の細かい調整まで終えたとき、ようやく心の奥底から湧いてきた。「こいつが俺の相棒なんだな」と。

初めてcerveloにまたがったあの日は、TTポジションの勉強が目的だった。まさか、ここまでこのバイクと過ごす時間が長くなるとは思ってもいなかった。どこか道具の一つとして見ていた自分が、今ではこのマシンと心を通わせるようになっている。

今回の台湾レースは、「ランとスイムを強化すれば、何とかなるだろう」なんて軽く考えていた自分がいた。でも、そんな甘さはすぐに跳ね返された。

ランの練習を始めた矢先に、膝が悲鳴を上げた。痛みで足を引きずる日々。思い描いていた計画が一気に崩れ、気持ちが沈んでいく。「この状態で本当に走れるのか? スタートラインに立てるのか?」と、夜中に何度も自問自答した。

けれど、完全じゃなくても、少しずつ前に進めた。走れないときは泳いだ。泳げないときは補給の練習をした。できることをひとつずつ、焦らず、諦めずに積み重ねてきた。

バイクパートでは、とにかく“走る”だけじゃダメだと気づいた。ランに繋げるためには、しっかりと補給しておくことが不可欠だった。何を、いつ、どれだけ摂ればいいのか。正解がない中で、失敗と試行錯誤を繰り返した。

ロードバイクのように“攻める”だけではダメだった。走りながら考え、体と相談しながら、次にどう動くかを決めていく。腹が減れば、脚が止まる。エネルギーが切れた瞬間、すべてが終わる。それがランパートの恐ろしさであり、面白さでもあった。

ここまで来るのに、いろんな人の支えがあった。トレーニングに付き合ってくれた仲間、アドバイスをくれた先輩方、そして何より、黙って応援してくれた家族。自分のわがままな挑戦を、止めずに見守ってくれた。

「ありがとう」という言葉じゃ足りないけれど、言わずにはいられない。

でも、まだ終わりじゃない。

大荷物を抱えて羽田を出発し、台湾・澎湖(ポンフー)に到着し、大会の受付を済ませる。そこまでがまず、最初の関門だ。

そして本番。自分にとっての本当の挑戦は、ランパートの20キロ以降にある。そこから先が、自分との闘いだ。体力だけじゃなく、気力との勝負。

焦らず、でも気を抜かずに。残された時間で、自分にできるすべてをやって臨もう。

ここまで積み上げてきた日々は、すべて無駄じゃないと信じて。